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シンボルマークができるまで

シンボルマークができるまで

こんにちは!アルジュナの樹世です。
初めてお会いする方に自己紹介をするとき、大概の場合「何のデザインをされているんですか?」と聞かれます。その場合、大枠でいうところ「CIデザイン」と答えたいところですが、なかなかCIが伝わりにくい。話すと長くなってしまうので「ロゴをよく作っています」と答えています。
うーん、でも、ロゴのデザインと一言に言っても普段工夫していることや得意とすることについては伝わりにくいもの。

今日は前回お話した「ロゴタイプ」続き、「シンボルマーク」づくりのフローをお話しながら、デザインがカタチになるまでの面白さを綴ってみようと思います。

クライアントの世界観を探し出す

たっぷりとヒアリングを行い、情報整理を行ったところまで来て、やっとロゴ(シンボルマーク)デザインの作業に入る頃。
資料はたっぷりあっても、いきなりデザインスケッチに向かうのは難しいこと。そこで、シンボルに結びつくカタチを探すために、いつも私が行っているのは「アイデアフラッシュ」です。フラッシュのやり方は人ぞれぞれ自由なのですが、私は定番の「マインドマップ」の描き方で行っています。やみくもにワードを書き連ねていくと有象無象…答えの見つからない落書きにしかならないので、ポイントとして以下のようなことを押さえて書いていきます。

1.ひとつの言葉から派生する類語を書き込みながら対象に相応しいことばを探す(例:上品/エレガント/優雅/高潔/潔い/真摯/ひたむき…)

2.ひとつの言葉から派生する形容詞・動詞・名詞を書き込む(例:古風/懐かしい/いにしえの/レトロな/脈々と/継承/伝統…)

3.モチーフとしてカタチになりそうなワードが見つかるまで果しなく描く

こうやってひとつの表現から派生した別の表現や固有名詞を引き出していきます。この作業の中でかなりヒントとなるワードがつむぎ出されていきます。

使用するものはA3の紙と鉛筆。クライアントのヒアリング資料や関連する書籍などを側に。類語辞典や書体辞典も役立ちます。
箇所によってはスケッチだけでなく、辞書などで調べたことのメモなども書いていいという決まりにしています。
このような作業を日常やっていると、予期しない言葉との出会いもあり、掘り下げて蛇足してしまうこともありますが、お構いなしに描く、書く。

たとえば…ある日「旬」という漢字の成り立ちを調べていると「旬という漢字は、10日間を表す”日”をぐるりと囲んだ龍神を模っている」という神話から成り立っていることを知りました。知らないことを知るきっかけができるって、すごく楽しいものです。飲み会のネタには事欠かないですね!

さて本題に入り、梅月堂のシンボルづくりに向かいます。
今回の案件はリブランディングということなので、新しいものをつくる、というよりも現行のデザインをどう進化させるかが基調となります。
クライアントさんから提供していただいた資料では

 

1940年頃のデザインはこのように三日月で梅をあしらったデザインになっていました。

そして現行のロゴがこのような梅の樹と花のデザイン。文字と絵柄が一体化している「エンブレム」のスタイルです。
1984年に一般公募で作られたデザインだそうです。
現行のロゴマークははっきりとしたコンセプトが立てられていなかったためか使用された期間が30年と長かったにもかかわらず「どんな意味が込められているのか」がお客様にはしっかりと伝わってこなかったようです。

あえて変えない、潔さ。

まずひとつめの案として「現行のエンブレムを再解釈し、さらなる定着をはかる」というコンセプトをもとにデザイン案を提案。

梅の葉、実、そして花がイラストであしらわれていましたが、そのひとつひとつのフォルムを検証して整え、個々のパーツに企業の理念をあてはめ、ブランドのコンセプトを明確に表現しました。

1輪の紅梅…梅月堂プライド
2枚の梅の葉…お客様の「時」と「場」
3つの青梅…3つの実り(伝統・文化・歴史)

「変わらないけど、新しい」と感じられる新鮮さ。なおかつ、ひとつひとつのモチーフが意味あるものに生まれ変わり、新しい価値を纏いました。

温故知新、原点回帰。

 

現行デザインのマイナーチェンジ案を施策しつつ、もう1つのデザインに取り組みました。
クライアントさんのひとつの目標として、130周年という区切りでブランド全体の見え方を刷新したいという思いがありました。
マイナーチェンジか刷新か。この二つのどちらをとっても、切り離せなかった大事な点が「伝統」。
明治〜令和という歴史ある企業だからこそ守り抜きたい信念とこだわりがある。
そこを汲み取ったデザインにチャレンジするということが最も大きなミッションです。
ここでさらに歴史を遡ったマイナーチェンジ案を提案することに踏み切りました。
1940年頃のシンボルマークをリバイバルし、しっかりとした企業理念を可視化する方向性でコンセプトを策定。

 

今回のリブランドを機にパーパスを構築し、その中に5つの信念が立てられました。

「人を種とし、花が咲き、お客様の幸せとして実る」まで、創り継承していくもの…

1.場
2.歴史
3.仲間
4.未来
5.文化

この5つの信念を結んだ図形の中に、5つの三角形が生まれます。
3角形からイメージされるモチーフは=三日月。
梅月堂の名前の中にある「月」です。

「5つの月で梅月堂の信念を表現する」
…ここで一旦、シナリオの輪郭が見えてきました。

そしてもうひとつの漢字は「梅」。
梅と月のふたつをしっかりと印象づけ、さらに企業の想いを伝える、これがシンボルマークのアイデンティティ。よし、決まった。
…ここでもういちど原点に遡って1940年のお店のサインを眺めてみました。

三日月5つだけで梅の形をつくる。

三日月5つだけで梅の形をつくる…?
なんとなくあたまの中にぼんやり浮かんだナニか….!
あ!あれだ。

にんじんの飾り切り!
あたまをかすめたこのにんじんの形は「ねじり梅」といわれるそう。
そこでまず、この人参のお飾りについて調べてみました。

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おめでたい梅に見立てる「人参」
梅は、寒い冬から春にかけて他の花々よりも早く咲くことから、古来より縁起物として愛されてきました。 そのようなおめでたい梅花の形になぞって人参を飾り切りしたものを「ねじり梅」といい、生活の豊かさを願う意味が込められています。
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そして、三日月に込められた日本古来の意味も。

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新月から3日目の姿として現れる三日月は、その儚さをたたえた形状が、侘び寂びの精神を映し出しているとも言われています。この不完全さは、日本人が重んじる「余白の美」を象徴しており、静けさや趣が感じられるとともに、月の、目に見えぬ部分に想像力を拡張させていく豊かな精神性も宿っています。
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なるほど、ねじり梅に込められた意味は、寒さを忍耐強く越え豊かな生活をあらわす縁起物だそう。これに着眼して梅の花を形作っていこう。
こうやってできたシンボルの名前を「三日月ねじり梅」と(勝手に)名付け、図案を構成していきました。
まずは、今後長く、飽きずに使ってもらうためには美しい比率でなくてはならぬ!ということで白銀比をもちい、バランスのよい三日月を作図。

 

1:√2の比率から1/2の部分を円の接点に設定すると、ちょうど美しい三日月が作られることを発見。
数学って何に使うんだろうと思っていましたが、こういうときに使うんですねえ(いまさら)。
ちなみに、月の呼び名は月齢によって変わるので、この形を「三日月」と呼んでいいかを一応調べたので貼り付け。
三日月としては少し太い感じもしますね。

三日月〜上弦の月の途中にあたる、「月齢5日目」くらいの形に近いのかもしれません。
そして、正5角形にバランスよく配置。図形の余白を程よくとり、明瞭で美しく。

遠くからは「梅の花」、近くで見ると「5つの三日月」。
だれがみても、わかるかたちに。
かわいらしく、エレガントに。

旧和文ロゴタイプも昔の面影を残しつつマイナーチェンジを施し、和菓子発祥の奥ゆかしい佇まいに調整し、

オリジナル書体で構成した欧文ロゴタイプとの組み合わせも調整。
新しさと懐かしさを同居させ、伝統と継承を融合させた新ロゴが完成。
日本古来の自然に対する畏敬の念とともに、未来を導く道標として大切にされるようデザインコンセプトを構成しました。

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デザインコンセプト

梅月堂が130年もの歴史で育んだ5つの精神(①場②歴史③未来④文化⑤仲間)を5つの三日月で表したシンボル。三日月は物事のはじまりを意味する特別な意味で古来より重んじられてきました。満月に向かい忠実に物事に励み、辛抱強く歴史を守り続けるという梅月堂の企業理念を道標として表しました。

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以上、シンボルマークに取り組んだフローについて縷々とお話しましたがいかがだったでしょうか。デザイナーのお仕事は色々なことを考え、整理し、調べ、学び、とあらためて面白いものだな!…と振り返りながら改めて感じました。

CIやVIは「アイデンティティ」を可視化することが大きな命題。まずは自分自身がクライアントが描く世界を咀嚼しなくてはなりません。それから形を作るために大切なことは、表現はきわめて「わかりやすく」「つたわりやすく」。
シンプルイズベスト、イズ、ベスト。

誰が見ても、だれが説明しても理解ができ、印象に残る形を構成していくことにロゴデザインの難しさと醍醐味があります。

まずは、「言葉の世界から入る」。
これからもデザインに取り組むことで、様々なことばや歴史と出会い知見を深めていきたいと思います。