みなさんこんにちは。
長崎のブランディングデザイン事務所「アルジュナ」の宮﨑です。
冷蔵庫の前で立ち尽くしながら、
「今日の相棒(ビール)はどれにしよう?」って考えたこと、ありませんか?
スーパーのビール棚の前でも同じ。似たようなアルコール度数、似たような価格、似たような泡。
でも、なぜか選ぶのはいつも同じ銘柄。
あれって、もうほとんど「恋」だなって思います。
今日はそのビールとの恋心、ちょっとブランディングの視点で考えてみます。
●ビールはただの飲み物じゃない
ビールは喉を潤すだけの液体じゃない。
缶のデザイン、手触り、冷たさ、プルタブを引く音。
全てが「体験」です。
僕にとってその象徴はアサヒスーパードライ。
実家がアサヒ派だったこともあり、気づけば人生で一番多く飲んでいるブランドになっていました。
でも不思議なことに、「なぜそれを選ぶのか?」と聞かれると、味だけじゃ説明できないんですよね。
缶の銀色に宿る硬派な雰囲気。
ちょっと角張ったロゴが放つストイックな男前感。
乾杯のとき、口をついて出てしまう「やっぱアサヒだよな」という、
誰に向けたのかわからない謎の同意。
●ビールは記憶を運ぶメディア

ビールって、記憶の引き出しを開けるトリガーになることがあります。
友達と徹夜で語った夜のキリン
仕事で悔しいことがあった帰り道のサッポロ黒ラベル
夏の夕暮れ、海辺のBBQで飲んだスーパードライ
どの出来事にも、その瞬間を象徴する「銘柄」がセットで記憶されている。
缶ビールの中に、あの日の空気がタイムカプセルのように保存されている感じです。
これはデザインやブランディングの本質にも直結してるもので
ブランドとは「記憶の器」である、という考え方。
●なぜ人は「同じ銘柄」を選び続けるのか
行動経済学的には「選択の省エネ」といわれます。
人は、何かを選ぶときに悩みたくないし、失敗したくない。
だから「これでいい」ではなく「これがいい」を選び続けるんですね。
決め手はスペックではなく、体験の積み重ね。
初めて飲んだときの印象
誰とどんな場で飲んだか
どんな広告で出会ったか
どんな価値観を感じたか
味覚は忘れても、物語は覚えている。
ブランドの役割はまさにここで、「選ばれる理由」を記憶として残すこと。
そして、それを設計するのがブランディングなのではないでしょうか。
●アサヒは「体験を設計する」ことで勝った

企業が生きてきた時間は、そのままブランドの人格になります。
スーパードライの「辛口」は、味の話だけではありません。
それはアサヒビールという企業が歩んできた歴史そのものです。
・1889年、大阪で「大阪麦酒会社」として産声
・戦後しばらくはライバルの影に隠れ目立たず
・1987年に登場したスーパードライは、挑戦と改革の結晶
銀色の缶に宿る硬派な雰囲気、コピーに込められたストイックさ。
ブランドは商品ではなく、時間と経験の積み重ねで育ちます。
アサヒスーパードライが市場で圧倒的なポジションを築いたのは、美味しさだけではなく、「世界観の設計」で勝ったからです。
・「辛口」「キレ」「洗練」、曖昧な表現は一切なし
・銀と黒のシンプルなデザイン
・CM、広告コピー、居酒屋の冷蔵庫まで統一された世界観
アサヒは「味を届けた」のではなく、「体験をデザインした」と言えますね。
●5大ビールを人間に例えてみた

ビールは人格を持っている。企業が意図的に人格を持たせているんです。
アサヒ:真面目でストイックな先輩。仕事できる。情に厚いのは隠してるタイプ
キリン:友達に一人ほしい兄貴肌。ちょっと雑だけど面倒見がいい
サッポロ:黒のコートが似合う大人。静かだが信頼厚い
ヱビス:特別な日に会う紳士。うっすら良い香りがする
サントリー:いつも陽気で人懐っこい。BBQ幹事率100%
なんとなく分かる気がしませんか?
こうやって「性格」で表現できるのは、ブランドが人格と価値観を持っている証拠。
ブランドを好きになる理由は、「共感」できるからなんですね。
●ブランドは作るものではなく「育てるもの」
ブランディングで大事なのは、「今日だけ良く見せること」ではなく「積み上げること」。
・一貫したメッセージを出す
・迷っても原点に戻れる軸を持つ
・生活のどこに入り込むかを考える
・ほんの少し遊び心を忘れない
ブランドは企業とお客さんが一緒に育てるものです。
● 梅酒「にじゅうまる」に学ぶ 「物語の余白」

公式サイト:
https://www.nakano-group.co.jp/nijyumaru/
最近感動したのが、梅酒ブランド「にじゅうまる」。
ただ美味しい梅酒を作っているだけじゃない。
「時間を味わう」という体験デザインをしています。
・名前の「にじゅうまる」がかわいい
・キャラクターが世界観をつくっている
・贈る相手やシーンが想像できる
・SNSで「共有したくなる仕掛け」がある
ブランドの「余白」を作って、生活に物語を置いていくデザインの好例だと思います。
●推しビールをもっと楽しもう
ブランドは特別な企業だけの話じゃない。
あなたの冷蔵庫にも、すでに「推しブランド」はいるはずです。
ビールを選ぶって、自分の気分を選ぶ行為でもあります。
強くいたい日は、アサヒ
今日は語りたい日は、キリン
ちょっと渋く決めたい夜は、サッポロ
缶を開ける音は、今日を切り替えるスイッチ。
ビールってブランドの教科書ですね。
人がなぜ選ぶのか。どう好きになるのか。そのヒントが詰まっています。
プルタブを開けたら、また一日進める。そんな気がします。
それでは、乾杯。🍺
