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仏壇を描く!坊さんデザイナー

2023.08.07

こんにちは。アルジュナの牛島です。
サイトのプロフィールにも書いているのですが、私はお寺の娘、4人兄弟の3番目として育ちました。
父が青年時代に芸術大学志望だったこともあり、厳しい世襲業界の中、自由な進学をさせたいと私をアートの世界へ薦めてくれた縁で、こうして今デザインの仕事に就かせてもらっています。

さて、「アルジュナ」という名前の由来ですが、こちらも仏教伝来の名称です。
ご存じの方もおられると思いますが、「ナーガールジュナ(Nāgārjuna)」というインドの古いお坊様のお名前から頂いたのが「アルジュナ」。ナーガ=龍、アルジュナ=樹を意味します。(諸説あり)
中国・日本では「龍樹」という名で知られる高僧で、世界で初めて「空(くう)」という哲学を説かれた方です。

空についてのお話は、ブログの文字数では収まりそうにないので、また別の機会に。今日は、お坊さんの家庭で育ち、僧侶の資格を持つというデザイナーの私が、お寺の仕事にどう携わっているのか、お話しようと思います。

 

令和を生きるお坊さんたちの課題

 

様々なクライアント様から依頼を受ける中、実はお寺・仏教関連のお仕事を受けることが多いのが私達アルジュナの特徴です。
中でも、宗教離れ・お寺離れが後を絶たないこの時代の中、私達お坊さんの業界では新しい世代へ仏教の教えを受け継いで行くことが大きな課題となっています。
私のお寺は浄土真宗なのですが、本山は京都の東本願寺というところです。本山をはじめ九州・東京などの支部から様々なデザインのお仕事を頂いています。

一昨年、年間を通して、一風変わったお仕事をさせて頂いたので、ちょいとご紹介します。

さて、若いご夫婦の家庭ではあまり見かけないかもしれませんが、お仏壇って皆さん何のためにあるかご存じですか?
○○回忌など、ご家族の法事で集まると、奥の仏間でお坊さんがお経を上げているシーンを見たことはないでしょうか。

「ご本尊アフターケア通信」。
改めて見ると何だかセンセーショナルなタイトルの冊子ですね。

ご本尊…聞き覚えの無い言葉ですが、何の事でしょう?
これはお仏壇の真ん中に立って(または座って)おられる仏像のことです。
ご家庭の本尊は木彫りの仏像だったり、仏像が描かれた掛け軸だったりと宗派によっても様々なのですが、ご本尊はご家庭の中で最も大切な場所に安置されているものです。
ご家族の方が亡くなられ、初めて家庭の仏間に本尊を迎えられる方のために、初歩的な知識や作法、仏教のお話など、気軽に手に取って読んで貰えるように製作された小さなリーフレット。1年間、毎月おうちに届きます。

 

みんなの生活のそばにある仏事

 

言われてみれば…法事も葬儀も、全くどのように振る舞ったらいいのか判らないことばかりではありませんか?
私はお寺で生まれ育ったので違和感を感じずに生きて来たのですが、出会う方の殆どがお仏壇の前で何をしたら良いのか、また中に並んでいる仏具の全てが何を表し、何のためにあるのか判らないまま過ごして居るという事を後から知りました。
これはなんとかしないと、と。

まずは、何だか得体の知れないモノ、という印象を払拭し、ご本尊に大事に向かい合って座って頂きたいという想いを企画にまとめ、「お仏壇のアイテムを愛くるしく表現」というテーマの元、12ヶ月をかけて作画を進めていきました。

季節に応じた年中行事をモチーフに、

 

初号…打敷(うちしき)=ご本尊や仏具を乗せる台に敷く刺繍柄の敷物
7月号…朱蝋(しゅろう)=法要の際に使用する赤いロウソク
8月号…墨袈裟(すみげさ)=お坊さんが付けている黒い袈裟(兄がモデル)


9月号…華瓶(かひん)=仏前に供える仏花用のかびん
10月号…お仏飯(おぶっぱん)=仏前に供える供物(ごはん)
11月号…お華束(おけそく)=報恩講(宗祖親鸞聖人の年忌法要)に備える飾り餅

12月号…鐘楼(しょうろう)=お寺の鐘
2月号…鶴亀の燭台(しょくだい)=仏前に供える鶴と亀のロウソク台
5月…赤本(あかほん)=法要の勤行の際に皆で唱和する偈文の本

6月号…土香炉=お線香を点てる香炉
4月号…散華(さんげ)=花まつり(お釈迦様のお誕生日)にお坊さんが蒔く紙製のはなびら
1月号…肩衣(かたぎぬ)=法事や法要の際に門徒(檀家)さんが正装用に肩から掛ける袈裟風の布

このような感じで、古くさく得体のしれない仏具の色々を、心を込めてポップに描いていきました。
ひとつひとつには大切に守られてきた由来や作法などがあり、その所作を改めてなぞらえていくと、先祖・家族の繋がりや、生まれてきた家庭への感謝の気持ちが芽生えてくるように感じます。

 

愛しきものを可愛く描く

 

「仏具がカワイイ」と感じるのはお寺で生まれ育った私の強み!と思っています。愛するものを描くと、自然と気持ちが入るものですよね。
お寺で会うおばちゃんたちや、若いお坊さん仲間にもすっかり気に入って頂き、今年また1年間増版し発行することが決まりました。ありがたーい。

その後、新しい案件で広島の僧侶の方々から依頼を受け、「お聴聞手帖」というものを製作する機会がありました。こちらは以前スタッフの大坪が書きましたのでぜひこちらをご覧ください。
そして、手帖の特別付録として描いたのが、本堂のお内陣の荘厳(しょうごん)。

「お内陣(ないじん)」はご家庭版「お仏壇」のマスター版とでもいいましょうか、お寺の本堂内に安置されるお飾りです。きらびやかですねえ。
なぜキラキラしているかというと、これは「極楽浄土」の景観を仮の姿としてランドスケープしているんですね。

「お寺の法要に行っても、右も左も判らず、お説法も難しくソワソワしてしまう」という方がいることを知っている私は、ぜひこんな方々に向けて、「ぼうっと眺めてても楽しめる」お内陣探検マップを作りたい!と提案。
イラストレーターの山口なみさんに協力いただき、素晴らしい仕上がりとなりました。

お仏壇は、皆さんのそばに寄り添ってくれる、仏さまのお部屋です。そしてそのお部屋の中に飾られている仏具一つ一つのパーツはデザインも素晴らしく、よく見ると愛くるしいアイテムばかりです。今度おじいちゃんおばあちゃんのお家や実家などに行ったら(ある方は)、ちょっと眺めてみてはどうでしょう!南無!

樹世拝

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